災害時、家族と連絡を取り合うための防災アプリの役割と選び方
はじめに
大規模な災害が発生した場合、電話回線が混み合い、通常の音声通話やSMSが繋がりにくくなることがあります。このような状況下では、家族の安否確認や状況共有が困難になり、大きな不安を感じることになります。
防災アプリは、このような非常時における家族間の連絡手段として、有効な選択肢の一つとなり得ます。しかし、多くの防災アプリが存在するため、どれを選び、どのように使えば良いのか迷うことも少なくありません。この記事では、災害時に家族と連絡を取り合う上で防災アプリが果たす役割と、アプリを選ぶ際のポイントについて解説します。
災害時における通信の現状と課題
地震や台風などの大規模災害が発生すると、固定電話や携帯電話のインフラに大きな負荷がかかります。安否確認や情報収集のために通信が集中することで、通信障害が発生しやすくなります。特に、音声通話は多くの帯域を必要とするため、規制の対象となりやすく、繋がりにくくなる傾向があります。
一方で、データ通信は音声通話に比べて比較的繋がりやすい場合がありますが、こちらもトラフィックの集中や基地局の損壊などにより、不安定になる可能性があります。このような不確実な状況の中で、家族との連絡手段を複数確保しておくことが非常に重要になります。
防災アプリが提供する連絡手段としての機能
防災アプリの中には、災害時における家族間の連絡を支援するための様々な機能を備えたものがあります。主な機能としては、以下のようなものが挙げられます。
- 安否確認機能: 事前に登録した家族や知人に対し、自身の安否状況(無事、負傷など)を定型文などで素早く送信できる機能です。テキスト情報であるため、音声通話よりも通信負荷が少なく、繋がりやすい場合があります。
- メッセージ機能: アプリ内で家族とチャット形式でメッセージをやり取りできる機能です。現在の状況や避難場所などを具体的に共有するのに役立ちます。
- 位置情報共有機能: 家族間で現在地を共有できる機能です。お互いの居場所を把握することで、合流や安否確認の手がかりになります。
- 災害用伝言ダイヤル・伝言板との連携: 国が提供する災害用伝言ダイヤル(171)や災害用伝言板(web171)へのアクセスを容易にする機能や、それらの情報をアプリ内で確認できる機能です。
これらの機能を活用することで、音声通話が困難な状況でも、家族と最低限の連絡を取り合う可能性を高めることができます。
家族で利用する防災アプリを選ぶ際のポイント
防災アプリを家族間の連絡手段として活用するためには、いくつかの重要なポイントを考慮して選ぶ必要があります。
- 家族全員が利用できるか: スマートフォンの機種(iPhone、Androidなど)に関わらず利用できるか、また、操作がシンプルで、スマートフォンにあまり慣れていない家族や、必要であれば高齢者でも使いこなせるかを確認することが重要です。普段から家族で一緒に操作を試してみることも推奨されます。
- 必要な連絡機能が搭載されているか: 安否確認の定型文送信だけで十分なのか、より詳細な状況を伝えられるメッセージ機能が必要なのかなど、家族としてどのような連絡手段を重視するかによって、必要な機能は異なります。
- 通信環境への対応: オフラインでも一部の情報(事前にダウンロードした地図など)を確認できる機能があるか、プッシュ通知機能は適切に動作するかなど、通信が不安定な状況下での利用を想定した設計になっているかも確認ポイントです。ただし、多くの連絡機能はインターネット接続が前提となります。
- 信頼性: アプリの提供元が公的機関や信頼できる企業であるかどうかも、情報源の信頼性や長期的なサービスの継続性の観点から重要です。開発元や運営体制について確認すると良いでしょう。
- 事前の設定の容易さ: 家族構成や連絡先などの設定が簡単にできるか、また、設定後に家族間で正しく連携できているかを確認しやすいかも重要です。災害発生前に、必ず家族全員でアプリをインストールし、必要な設定を済ませておく必要があります。
単に機能が多いだけでなく、家族構成やそれぞれのスマートフォンの利用習熟度を踏まえ、「いざという時に、家族全員が慌てずに使えるか」という現場の視点に立って選ぶことが最も重要です。
アプリ以外の連絡手段との組み合わせ
防災アプリは有用ですが、アプリだけに頼るのではなく、他の連絡手段と組み合わせて使用することが、より確実性を高めます。
- 災害用伝言ダイヤル(171)/災害用伝言板(web171): 音声通話やデータ通信が困難な場合に備え、利用方法を事前に確認しておきましょう。
- SNSの活用: TwitterやFacebookなどのSNSも情報収集や安否発信の手段として有効な場合があります。
- 待ち合わせ場所の事前決定: 万が一、全く連絡が取れなくなった場合に備え、家族であらかじめ集合場所を決めておくことも重要です。
これらの手段を、利用する防災アプリと合わせて家族で共有し、使い方を確認しておくことが、災害時の混乱を減らし、安全確保に繋がります。
まとめ
災害時における家族との連絡手段として、防災アプリは非常に有効なツールとなり得ます。しかし、アプリの選定にあたっては、機能の多さだけでなく、「家族全員が使えるか」「本当に必要な機能は何か」「通信が不安定な状況で役立つか」といった現場での利用を想定した視点を持つことが不可欠です。
複数の連絡手段を組み合わせ、家族で事前に話し合い、練習しておくことが、いざという時の備えとして何よりも重要です。今回ご紹介したポイントが、皆様の防災対策の一助となれば幸いです。